55.初めてイワナが釣れるまで(5)
 恋の季節。それは春です。
 鯉の季節。それも春です。
 これから冬に向かっていくというのに,私が82センチの大鯉を釣ってしまったものだから,皆さんせっせと,寒さも何のその釣り場に通うようになりました。
 私も暇さえあれば,牛久沼に出かけるようになりました。
 仕事の前にちょっと竿を出し,仕事の帰りにちょっと竿を出し,寸暇を惜しんで鯉の吸い込み釣りに勤しみました。
 車のトランクには,釣り道具と,長靴が常備されています。
 仕事帰りの吸い込み釣りは,スーツ姿に長靴という,何とも奇妙ないでたちです。
 何せ,牛久沼は職場からすぐの所にあるので,皆さんちょこちょこ出かけました。
 休日ともなれば,折りたたみ椅子にゲームボーイ,文庫本を持参し長期戦です。
 設備投資も進みました。
 吸い込みの場合,エサを投げておいて,竿先に鈴をつけておき,待っているだけの釣りですから,確率的に竿は一人2本なら2倍,3本なら3倍釣れるわけです。
 そんなわけで,竿の数も増えていきました。
 釣れるときは,あちこちの竿で鈴が鳴り,手が足りないほどです。私にはそんな経験はありませんが。
 と,ここまで古いメモを見ながら書いて,なんだか吸い込み釣りがやりたくなってきました。
 ちょっと物置に行って来ました。
 ありました。ありました。
 今は使っていない古いリール竿,竿立て,釣り用の折りたたみ椅子。肘掛け付きです。
 懐かしい品々です。
 イワナ釣りが禁漁のこの時期,吸い込み釣りもいいかもしれません。
 ああ,吸い込み釣りがやりたい。
 釣りに行きたい。
 おっと,ますます話が進まなくなるので話を戻します。
 釣りを始めて3ヶ月。
 釣りの仲間もだんだん固定してきました。
 ウーやん,青井さん,ノリさん,菊ちゃん,ヨシヒロさん,そして私の6人です。
 そして,いつの頃からでしょうか,釣り仲間の集まりがクラブチームに発展していったのです。
 そのチーム名をIFCと言います。
 そのまま,アイ・エフ・シーと読みます。
 誰が名付けたかはわかりません。
 いつから始まったかもわかりません。
 IFCは,いばらき・フィッシング・クラブの略称だという説がありますが,のちには,正式にインターナショナル・フィッシング・クラブの略称ということになりました。
 誰がそう言ったか,今となってはわかりません。
 とりあえず,ヨシヒロさんが会員証を作って配ってくれました。
 会員証は何に使うのか,どのような特典があるのか,全くもってわかりません。
 それどころか,ヨシヒロさんは,何のために会員証を作ったのかもわかりません。
 何かに役立ったこともありませんでした。
 何が何だかさっぱりわかりませんが,とにかくヨシヒロさんが,せっせと会員証を作ってくれたのです。
 今は,この会員証,なくなってしまいました。
 たぶん,もらってすぐなくなってしまったと思います。
 なくしても全く困ることはありませんでした。
 それから,この会の会長は誰なのか,会則はあるのか,そこら辺も全くわかりません。
 たぶん,会長は決まっていなかったと思います。
 会則はなかったです。
 会費も特になかったです。あったら誰も入りません。
 入会金も当然ありません。
 誰が入会しているのかも定かではありません。
 とにかく何が何だかわからない釣りクラブが誕生したのです。
 さらにわからないのは,ウーやんです。
 「IFCのユニフォームを作るぞ。」とか言って,紫や蛍光色のトレーニングウェアにIFCのロゴを入れて大量に注文してしまったのです。
 体育会系のクラブではありません。
 釣りのクラブなのです。
 普通,釣りの会は,フィッシングベストとか揃えるんじゃないですかね。
 今でもIFCのユニフォームあります。あまりに派手で着られないので,ずっとしまってあります。だいたい,釣りにトレーニングウェアは着ません。
 スーツで吸い込み釣りをやる人が,あまり文句は言えませんが。
 皆さんIFCのユニフォーム,どうしているのでしょうか。
 当時,ウーやんとノリさんはよく着ていたように思います。
 似合っていませんでした。
 誰が着ても,釣りには似合いません。
 ちょっとタンスを覗いてみました。
 ありました。ありました。
 うーん。斬新なデザインです。
 派手です。
 時代を感じさせないデザインです。と言うより,当てはまる時代が見つからないデザインです。
 さすが,ウーやん。
 こんなユニフォーム,一体いつ着ればいいのでしょうか。
 たぶん,一生着ないでしょう。
 流行することは絶対にないデザインです。
 ホント,困ったウーやんです。
 で,釣りの方はどうなったかというと,IFCのメンバーそれぞれぽつぽつ中型の鯉を釣り上げていました。
 さすがIFCです。
 寒さにもめげず,せっせと釣り上げていました。
 私はと言えば,82センチの大鯉は,ビギナーズラックだったことを証明するかのように何事もなく,釣りの熱もしだいに冷めていきました。
 寒さはいっそう厳しくなり,鯉も釣れなくなってきました。
 気持ちの方も,釣りからスキーへと変わって行き,1991年が終わりました。
 しばらく釣りはお休みです。
 あらあら,終わってしまいました。
 とりあえず,今回の話は,IFCの会員証とお揃いのトレーニングウェアで終わりです。
 ガッカリしないで下さい。
 IFCは,さらなる発展を遂げるのです。
 IFCの歴史が,私のイワナ釣りの歴史なのです。
 次回,請う,御期待。

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