21.初めてイワナが釣れるまで(3)
 「もうそろそろ,自分で投げろよな。」
と,ウーやんは言った。
 ウーやんと釣りに行くようになって,3度目だったろうか。
 思ったところにエサを投げ込めないので,いつもウーやんに投げてもらっていた。
 依然として鯉は一向に釣れない。
 リール竿の扱い方もわからない。
 投げるのもできない。
 それでも一度でいいから釣りたい。
 そこで編み出されたのが,手投げ方式。あらかじめ竿を竿立てに固定しておき,リールは開放しておく。そして団子にした練り餌を手で投げるのだ。
 かなり邪道なやり方だが,これなら思ったポイントに餌を投げ込むことができる。
 欠点は,遠投がきかないと言うこと。
 それでも手投げ方式が功を奏したのか,ついにわたしにも釣れるときが来たのです。
 記念すべき1尾。
 ああ,忘れもしない,1991年11月23日。そうです,そうです,勤労感謝の日です。
 お魚感謝の日です。
 体長20センチ弱。
 鯉ではありません。
 もちろんイワナでもありません。
 それは,見たこともない鯛みたいな熱帯魚みたいな変な魚だったのです。
 「ウーやん!釣れた,釣れた。変なの釣れたどー。」
 それはもう,大興奮です。
 何せ釣りにのめり込んでいるのに,今まで1尾も釣れなかったのですから。
 わたしの興奮をよそに,ウーやんは,
 「何だ,ブルーギルか。」と冷たい反応。
 「ブルーギルってなに?」とさらに興奮するわたし。
 「子供でも釣れるバカな魚だよ。そんなのミミズでいくらでも釣れるよ。よく吸い込みに掛かったな。やっぱりバカな魚だ。」
 記念すべき1尾が,バカな魚だなんて情けない。
 まあ,釣れたことには代わりはないので大満足だった。
 と,ここで新たな問題が発生した。
 わたしは,生きている魚は気持ち悪くて,素手でさわれないのだ。
 「ウーやん,この魚の釣り針,はずしてよ。」
 「自分でやれよ。」
 「気持ち悪くてできないよ。暴れているし。」
 「まったく,しょうがねえな。」
 焼き魚なら好きだけど,生きているのは苦手という,とんでもない釣り師だった。
 さわれないなら釣りをやるなと言われても,返す言葉もない情けないわたしでした。
 こうして勤労感謝の牛久沼は日が暮れていくのでした。
 こんな状態ではとてもイワナは釣れそうにない。
 そう思っている方,正解です。
 まだまだ,イワナは1億光年の彼方です。
 書いているわたしも,こりゃとんでもない長編になるなと,いやな予感がしています。
 魚をさわれない人がイワナは釣れないでしょ。
 ごもっともです。
 でも,さわれるようになるのはもっと先です。
 困ったことです。
 でも,必ず釣れますからもう少しお付き合いください。

(4)へつづく

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