「もうそろそろ,自分で投げろよな。」
と,ウーやんは言った。
ウーやんと釣りに行くようになって,3度目だったろうか。
思ったところにエサを投げ込めないので,いつもウーやんに投げてもらっていた。
依然として鯉は一向に釣れない。
リール竿の扱い方もわからない。
投げるのもできない。
それでも一度でいいから釣りたい。
そこで編み出されたのが,手投げ方式。あらかじめ竿を竿立てに固定しておき,リールは開放しておく。そして団子にした練り餌を手で投げるのだ。
かなり邪道なやり方だが,これなら思ったポイントに餌を投げ込むことができる。
欠点は,遠投がきかないと言うこと。
それでも手投げ方式が功を奏したのか,ついにわたしにも釣れるときが来たのです。
記念すべき1尾。
ああ,忘れもしない,1991年11月23日。そうです,そうです,勤労感謝の日です。
お魚感謝の日です。
体長20センチ弱。
鯉ではありません。
もちろんイワナでもありません。
それは,見たこともない鯛みたいな熱帯魚みたいな変な魚だったのです。
「ウーやん!釣れた,釣れた。変なの釣れたどー。」
それはもう,大興奮です。
何せ釣りにのめり込んでいるのに,今まで1尾も釣れなかったのですから。
わたしの興奮をよそに,ウーやんは,
「何だ,ブルーギルか。」と冷たい反応。
「ブルーギルってなに?」とさらに興奮するわたし。
「子供でも釣れるバカな魚だよ。そんなのミミズでいくらでも釣れるよ。よく吸い込みに掛かったな。やっぱりバカな魚だ。」
記念すべき1尾が,バカな魚だなんて情けない。
まあ,釣れたことには代わりはないので大満足だった。
と,ここで新たな問題が発生した。
わたしは,生きている魚は気持ち悪くて,素手でさわれないのだ。
「ウーやん,この魚の釣り針,はずしてよ。」
「自分でやれよ。」
「気持ち悪くてできないよ。暴れているし。」
「まったく,しょうがねえな。」
焼き魚なら好きだけど,生きているのは苦手という,とんでもない釣り師だった。
さわれないなら釣りをやるなと言われても,返す言葉もない情けないわたしでした。
こうして勤労感謝の牛久沼は日が暮れていくのでした。
こんな状態ではとてもイワナは釣れそうにない。
そう思っている方,正解です。
まだまだ,イワナは1億光年の彼方です。
書いているわたしも,こりゃとんでもない長編になるなと,いやな予感がしています。
魚をさわれない人がイワナは釣れないでしょ。
ごもっともです。
でも,さわれるようになるのはもっと先です。
困ったことです。
でも,必ず釣れますからもう少しお付き合いください。
(4)へつづく
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