13.昭和村見聞記(8)
071 夜の舟鼻峠

 早朝,釣り場一番乗りを目指して,深夜に舟鼻峠を越えていく。
 30分近く全く人家も灯りもない所を走るので,一人のときは少々怖い。
 国道とはいえ,対向車はまずない。
 車が山中で故障したらと思うと不安になる。
 あるとき,Kさんは,峠でパンクしてしまい,宿に着いたときタイヤはボロボロになっていたという。
072 釣り場で怖いもの

 渓流釣りをやっていて怖いもの。
 熊。マムシ。ツツガムシ。虻。スズメバチ。
 怖いものはいろいろあるけど,一番怖いのは,
「釣れますか。」と耳元で釣り人に聞かれたとき。
 人の気配のないところで,不意に人間に会うとびっくりする。
 一番怖いのは人間だ。
073 林道の遮断機

 車で林道を登っていくと,遮断機があって通れないことがよくある。
 たいていはそこから歩いて釣り場まで行くことになるのだが,まれに遮断機が開いていることがある。
 そんなときは,開いているからといって車で先へ行ってはいけない。
 釣りから帰ろうとしたら鍵がかかっていて戻れないなんていうことがあるからだ。
074 ぞっとするところ

 ある釣り人から聞いた話である。
 玉川で釣りをしていて,そこを通るといつも寒気がするところがあったという。
 いつもいつものことなので,不思議に思って調べてみると川の近くに荒れ果てた墓があったという。
 それ以来,そこを通るときは必ずお供えをするようにしているのだそうだ。
 そこは,かつて木地師の集落があったところだという。
 
075 大ヤマメ(1)

 中島屋旅館の玄関には,たくさんの魚拓が飾ってある。
 その中でも,63センチのヤマメがひときわ目を引く。
 宿に泊まった釣り人は,必ずといっていいほど,この魚拓を話題にする。
 こんなヤマメが本当に実在するのか。
 ニジマスではないのかとか,サクラマスじゃないのかとか。
 そんな話を聞くたびに,宿のおじちゃんは写真を撮っておかなかったことを後悔するのである。
 あまりにも驚いて写真を撮るのを忘れたのだそうだ。
076 大ヤマメ(2)

 この63センチのヤマメについて,宿のおじちゃんから何度同じ話を聞かされたことだろう。
 だいたい年に2回は聞かされるので,少なくとも20回以上は同じ話を聞いているだろう。
 話の内容はいつも同じなのだが,ついつい聞き入ってしまう。
 まるで昔話を聞いているようだ。
077 大ヤマメ(3)

 この大ヤマメを釣った人は,毎週週末になると昭和村に来ていたそうだ。
 ところが,釣果は毎週毎週ボウズで,旅館の人も不思議に思っていたそうだ。
 気の毒なぐらい釣れないのに,毎週毎週通ってくる。
 ところがある日,大喜びで63センチのヤマメを抱えて,宿に戻ってきたそうだ。
 大ヤマメ専用の仕掛けだったので,それまではいつもボウズだったのだという。
 
078 大ヤマメ(4)
 
 その釣り人は,大ヤマメの姿を見てから,毎週通い始めたという。
 専用の仕掛けを作り,大ヤマメをひたすら追い続けたのだという。
 誰かに釣られることがないように,宿にも内緒にしていたという。
 それで毎週ボウズだった謎が解けたそうだ。
079 大ヤマメ(5)
 
 さて釣り上げた大ヤマメ,魚拓をとろうにも大量の墨がいる。
 塗ったそばから,墨が乾いてしまうので大変だったという。
 そのヤマメは剥製になっているそうだが,旅館には1枚の魚拓があるのみ。
 その釣り人も,その後は滅多に来ないそうで謎は深まるばかりだ。
080 マイタケ

 昭和村ではマイタケが採れる。
 もちろん地元の人やきのこ採り専門の人でないと簡単には採れない。
 中島屋旅館では,夕食に天然マイタケの天ぷらが出ることがある。
 スーパーの100円マイタケとは似て非なるもの。
 あまりの美味さに,舞い踊りはしないが唸ってしまう。
 天然マイタケを買えば5000円ぐらい,原木栽培なら700円ぐらい。
 昭和村は安い方だと思う。