051.コゴミ

 ゴールデンウイークの頃になると,山菜はコゴミが中心になってくる。
 食堂で,ビールを注文すればサービスでおつまみにコゴミがついてくる。
 ラーメンを注文すれば,具がコゴミだったりする。
 どこへ行ってもコゴミばかり,これだけ食べさせられると辟易してしまう。
052.親子釣り師

 毎年1回はやって来る親子釣り師がいる。
 親子で尺イワナをたくさん釣ってくる。
 宿での食事中も,釣りの先生と生徒という感じで,どう見ても親子でレジャーを楽しんでいるようには見えない。
 マンガの「巨人の星」に出てくる星一徹と飛馬を連想させる親子である。
053.へびのぬけがら

 玉川は,丸い石が多く,転びやすい。
 あるとき,肘を擦りむいて宿に戻ると,宿のおばちゃんが「怪我にはこれがよい。」と言って,肘にヘビのぬけがらを貼ってくれた。
 本当に効くのかどうかはわからないが,どっちにしても気持ちのよいものではない。
054.ドクダミのてんぷら

 中島屋旅館では,夕食にいろいろな山菜の天ぷらが出る。
 ある時,変わった味の天ぷらが出たので何の天ぷらかおばちゃんに尋ねると,「薬だよ,薬。体にいいんだよ。」などと言って笑っている。
 知っている味のようでわからない。
 「ドクダミの葉っぱだよ。」おばちゃんは笑って答えた。
055.岩盤の恐怖

 野尻川は,川底が岩盤になっているところが多い。
 岩盤は複雑な形になっていて,浅いと思っても急に深くなっているところがあるので,よく見て遡行しなければならない。
 あるときSさんが,岩盤の浅い所をたどりながら釣り上っていった。
 ところが,急に夕立になって,川はたちまち茶色に濁りはじめた。
 Sさんは,引き返そうとしたが岩盤の浅いところが見えなくなって,深みにはまって流されたという。
056.問わず語り

 畑仕事をしている地元のおばちゃんに「この辺,釣れますかね。」と尋ねたときのことである。
 そのおばちゃんは,「うちのじいさんが,どこそこでイワナを釣った。今は年なので釣っていない。息子は東京で働いていて,その嫁は田舎が嫌だという。息子は,云々。」と延々と話を続けている。
 ちょっと釣り場を聞いただけなのに,なかなか釣りをさせてもらえなかった。
057.ヘリコプター

 Hさんは,沢釣りの名人である。
 ある日,前日に入渓し,しこたまイワナを釣り上げた。
 そろそろ終わりにしようと,イワナの腹を割いていると,上空からヘリコプターが近づいてきたそうだ。
 Hさんは,自分の釣果を自慢しようと,手を振ってイワナを見せたそうだ。
 何かの取材かなと思ったHさん。
 実はそのヘリコプター,あまりにも帰りが遅いHさんの救助用ヘリコプターだった。
 
058.浮き釣り

 オイカワ釣り名人のKさん。
 昭和村でもヤマベの仕掛けにこだわっている。
 何と言われようがヤマベの仕掛けでヤマメをねらう。
 その甲斐あって,29センチのヤマメを釣り上げた。
 ヤマベ竿は大きくしなり,気持ちのよい釣りができたという。
059.マムシ酒

 中島屋旅館でマムシ酒を御馳走になった。
 5年ものだそうである。
 生きたマムシでないと造れないと言う。
 強烈な香りは,口を濯いでもすぐにはとれない。
 とても美味いと言える代物ではない。
060.釣り名人

 宿でよく会うSさんは,釣り名人だ。
 1シーズンに尺イワナを15尾ぐらいは釣るという。
 どこで,どんな釣りをしているかは全くの謎だ。
 名人ほど,場所は誰にも教えない。
 何度聞いても,「魚のいるところが釣れるところです。」と答えるばかりだ。
 
11.昭和村見聞記(6)