041 ヘビ

 よく釣れるのに,釣り人を見かけない場所がある。
 宿のおじちゃんに聞くと,そこはヘビが多いからだという。
 2回に1回は見るので,ヘビが多いのは事実だ。
 川を泳ぐヘビを見ると,ドキリとする。
 近くに山椒の木があり,ヘビは脱皮するために山椒の木の棘を利用するという。
 だからヘビが多いのだそうだ。

042 ラーメン

 下中津川に「三島屋」と「やまか食堂」という食堂が2軒並んでいる。
 どちらの店も,ラーメンが旨い。
 三島屋のラーメンは,喜多方ラーメン風で太麺好きの私には,ぴったりだ。
 やまか食堂のラーメンは,手打ちの熟成麺が売り物だが,スープに七味唐辛子が入っているのが変わっている。
 ラーメンには,胡椒の方がいいと思うのだが。
043 水難事故

 あるとき,同行のE氏が,足を滑らせて竿をもったまま流されてしまった。
 彼によれば,川の流れに身をまかせながら,身の危険を感じるよりも先に,なぜか笑いが込み上げてきたという。
 自分も一度,滝谷川で流されてしまったとき,同じようについ笑ってしまった。
 人間は,どうすることもできないと,笑ってしまうものなのかもしれない。
044 毒キノコ

 キノコの知識が全くない。
 釣りの合間に,食べられそうなキノコを10種類ほど採取して宿に持って行った。
 宿のおじちゃんに尋ねてみると,全部毒キノコだった。
 釣りの合間にキノコが採れるほど,キノコ採りは甘くないらしい。
 もっとも,毒がなくても昭和村で食べないキノコは毒キノコと言うらしい。
045 チタケ

 栃木県で特に珍重されているキノコにチタケがある。
 釣りの帰り道,直売所を覗いてみると,結構な値段で売られている。
 昭和村では,チタケを食べる習慣がないそうだ。
 宿のおじちゃんの話では,出汁にしかならないし,食べてももさもさしていて美味しくないという。
 村の人は,チタケは採らないという。
 採りに来ているのは,栃木県の人たちばかりだそうだ。
 確かに栃木ナンバーの車が多い。
046 博士沢

 かつて博士沢には,職漁師がいたという。
 西山温泉あたりにイワナを卸していたそうだ。
 今では,かなり奥まで入らないとまともな釣果は上がらないそうだ。
 谷の深い沢なので,入渓したことはないけれど,魅力的な沢である。
047 エビネ

 山野草には全く興味がなかった。
 イワナとヤマメ意外,眼中になかった。
 それを変えてくれたのが,同行者のH氏である。
 あるとき,H氏がエビネの群落を見つけた。
 そのときから,自分も山野草に興味を持つようになった。
 次の年,エビネを見に沢を登っていくと,地滑りの跡があって,エビネの群落はなくなっていた。
 
048 隠し沢

 どうしても釣れないとき,宿のおじちゃんが隠し沢を教えてくれた。
 隠し沢は,沢の途中で取水したりして,奥に行かないと水がない沢だ。
 そんな村人しか知らないような沢でも,入渓した跡があり,リリースサイズのイワナしか釣れなかった。
 宿のおじちゃんは,「釣れないはずはないんだがな」と少し軽蔑したように言った。
049 釣れていた話

 川を上流へ上流へと釣り上った。
 しかし,イワナのアタリはなく,失意のまま引き返す。
 足取りは重く,仕掛けをしまうのも面倒になり,仕掛けをそのまま流しながら川を下る。
 そろそろ竿をしまおうかというとき,イワナが掛かっていたことがあった。
 釣ったのではなく,気がついたら釣れていたのである。
 嬉しいような,悲しいような。
 
050 イワナ汁

 釣ったイワナを身がボロボロになるまで煮込んで,味噌を入れる。
 イワナ汁の出来上がりだ。
 出汁も具もいらない味噌汁だ。
 同宿したSさんに教えてもらった調理法だ。
 
07.昭和村見聞記(5)